脳神経外科学分野の准教授の山田先生らの論文がAging and Disease誌に掲載されました。

プレスリリース:https://www.nagoya-cu.ac.jp/press-news/202512111400/

Yamada S, Okada K, Ito H, Iseki C, Yamanaka T, Tanikawa M, Otani T, Ii S, Watanabe Y, Wada S, OshimaM, Mase M.
Interthalamic Adhesion as a Potential Structural Regulator of Cerebrospinal Fluid Dynamics in the Third Ventricle. 
Aging and Disease, 2025 (online ahead)
DOI: 10.14336/AD.2025.1352
https://www.aginganddisease.org/EN/10.14336/AD.2025.1352

脳の中心にある第三脳室の周りには、睡眠・食欲・体温など、生命維持に重要な働きを担う神経核が集まるが、その理由は解明されていない。また、その第三脳室のほぼ中央には、左右の壁を形成している「視床」をつなぐ視床間橋という構造物が存在するが、その役割は依然として解明されていない。

そこで、複雑な形状をする第三脳室内の脳脊髄液動態を統合的に理解するために、特殊なMRI撮影法(3次元MRIと4次元フローMRI)を用いて、健常な人と、歩行障害や物忘れをきたすハキム病(特発性正常圧:iNPH)を対象として、第三脳室の大きさ、視床間橋の幅や面積に加え、脳脊髄液の動態を「渦(うず)度」と流速ベクトルを用いて比較した。

この結果、健常な人では、第三脳室の中に心臓の拍動に同期した規則正しい渦と流れが一貫して認められた(図)。これに対してハキム病(iNPH)患者では、第三脳室が著しく拡大し、健常者で認められた秩序だった「渦と流れ」が失われていることが明らかとなった。

加齢とともに視床間橋は縮小し、第三脳室の「支え」の構造が弱くなり、第三脳室が拡大しやすくなる。さらに、視床間橋によって、中脳水道から第三脳室に入る脳脊髄液の流れを抑える「防波堤」の役割は、視床間橋の縮小(もしくは消失)によって十分に果たせなくなり、第三脳室内の脳脊髄液動態が不安定になる。

まとめると、視床間橋は第三脳室が横方向に広がらないような構造的支柱としての役割に加え、適切に渦を形成して、第三脳室内の脳脊髄液がモンロー孔から中脳水道へと流れやすくするための役割がある可能性を本研究で初めて示し、この崩壊がハキム病(iNPH)の発症機序の一因となると考えた。